映画祭当日、「春・音の光」上映の後に
館内に流れた中尾幸世さんからの声のメッセージです

こんにちは、中尾幸世です。
今、私は「春・音の光」のビデオを観終え、この録音をしています。
最後にオンエアで見て以来ですから、十数年ぶりでしょうか。
あらためて、とっても新鮮な感動を覚えます。

当時、私は会社に勤めていましたので、ロケで一ヶ月休職をしたり、また、ロケを終えて仕事に復帰するにも気持ちの切り替えが大変だったことなどを思い出します。

いろいろな思い出がありますが、スロバキアの自然やロケにまつわる思い出を少しお話したいと思います。
前作、前々作のイタリア・スペインでは出発前に言葉を予習する時間がありましたが、スロバキア語に関しては資料も少なく充分な準備も出来ないままの出発でした。
前作よりも長い台詞が多くなったこともあり、音の響きが自分のものとして体に入ってくるまで時間が少しかかりました。
調律師ウイリアムとのシーンで”モーツアルトは太陽”というシーンがありますが、まさにスロバキアについた当初はあのようにうまく話せませんでした。

言葉といえばラド少年、なんにつけても少年らしい興味を示してくれましたが、母国語であれ、あのようにたくさんの日常の会話の世界とは違う言い回しには戸惑っていました。覚えることにそれはとっても苦労していました。大きな木の下で、スロバキアのスタッフとマンツーマンで台詞を覚えている姿を思い出すとあらためて「ありがとう」とお礼を言いたい気持ちでいっぱいになります。

さて、ロケはブラスチラバ以外では地方の静かな田舎を回りました。
ウヨ・オンドレイとのシーンでは、放牧地・山小屋といった自然の中で過ごす時間がとっても多かったです。霞がかった高原を渡っていくフェラの音色やカウベルの音はとても静かな響きです。もともとカウベルや小鳥の声が大好きな私にとってはとっても幸せな時間でした。
パン・マルコの家で一緒に音を確かめたカウベルの一つは今も私の部屋にあり、ときどき、思い出したように音をならして聴いたりしています。

出演者としては最初のシーンの船着場で歌をうたう人のそばで釣りをしているのが、スロバキアのスタッフの一人です。また、調律師ウイリアム役をしてくれたのもスタッフの方です。地方のロケを終え、ブラスチラバに戻る、もう撮影も残り少なくなった頃、最後の最後に佐々木さんに説得され、彼は大役を引き受けてくれました。今回の「春・音の光」が最後の作品となりましたが、撮影中はもちろん、そういうことを意識したことはありません。編集が終わり、試写会の日が決まる頃にはふと考えたこともありましたけれども。しかし、毎回、佐々木さんが登場人物を探すのに大変苦労をなさっているのを見ているために、この後も作りつづけることの難しさは感じていました。

最後になりましたが、この作品が、いつまでも皆様の心の中で生きていてくれることを切に願ってやみません。今日は本当にありがとうございました。

映画祭当日、「春・音の光」上映の後に館内に流れた中尾幸世さんからの声のメッセージです。


Last update      2006.7.9