トーク前半です。

司会: それではトークを始めさせていただきたいと思います。それではゲストの御二人をお迎えしたいと思います。みなさまどうぞ大きな拍手でお迎えくださいませ、どうぞ。
(拍手)
司会: 映画監督の是枝裕和さん、本日の二作品の主演女優をなされました中尾幸世さんの御二人です、本日はよろしく御願いいたします。
(拍手)
是枝: こんにちは…
中尾: こんにちは…
(笑い)
是枝: あのー、なれない司会なので、どれくらいみなさんの期待に応えられるか、非常 に不安なんですけれども、なのに何故引き受けたかと言いますとですね、こんな機会 でもないと中尾さんとお会いしてお話をする機会がないだろうというふうに思いまし たし、僕が映像を、特にそのテレビというものへ向かう大きなきっかけの一つになっ のが佐々木さんの作品だったんですね、もう大学生の頃なんでもう1 5年以上前になるんですけど、そんな事もありまして引き受ける事になったんですが 自分の話をするのとは比べものにならないぐらい非常に緊張してまして、難しいなと 思ってるんですけども、よろしくお付き合いください。 よろしく御願いします。
中尾: よろしく御願いします。
(拍手)
是枝: あんまり…あまり2人ともテンポの速いほうではないので…
(笑い)
是枝: 間ができる思いますけど、気にしないで。気にしないでくださいというのを最初 にお断りした上で、いろんな話を聞いていきたいと思いますが。 あの、佐々木さんとのお仕事は今日の2本を含めて全部で?
中尾: 5本、5作品ございます。
是枝: あの、色んなところで聞かれてるかもしれませんけれども、その、どういういき さつで出られるようになったん…ですかね?
中尾: あの、一番最初の作品は高校3年生のだいたい5月か6月に創られた、今日の一 番最初に上映された作品なんですけれども、そのときにきっかけになったのが、その ちょっと前に東京キッドブラザースという演劇集団がありました。わたくし中 学の頃にテレビで観た、その僅かワンシーンだったんですが、そのワンシーンのエネル ギーとそれから東由多加さんという方が主催なんですが、その方のユートピア思想とい うのに非常に強く惹かれまして、いつかこういう形での表現活動をしてみたいと思っ てたんです。それから、たまたま高校2年生の秋に朝日新聞みていましたら、そこに そのオーディション記事が載っていて、もう早速これは今しかないと思って受けまし た。で、そこでお芝居をやりました。それに一緒にオーディションを受けて、同 期でいらっしゃった方が、たまたま主演というかたちでの少女を探している佐々木 さんとの出会いのきっかけを作ってくださったんです。 それがきっかけです。 もともと演劇は好きでした、演劇部を中学の時に作って、自分で脚本を書いてま した。
是枝: 初めて会われた時の事覚えてらっしゃいますか?
中尾: そうですね、自宅のそばの喫茶店で会いました、お待ちしてたら佐々木さんが登場 して、すごく線の細そうな、あれディレクターっていうのはもっとなんかサングラス をしてたりとかイメージがあったんですが、全然違う方で、あれこんな方でも創るのかなっていうぐらい……そんな感じでした。
是枝: そこでは具体的にはなにを話されたんですか?
中尾: そのときに話しをしてくださったのは、「夢の島少女」のスト−リィなんですけれ ど、もちろん台本を持参していらしゃったわけでなくて、まあこれぐらいの小さなテ ーブルの正面に座って、実はこういう話しをって言って、とめどもなくもう本当に イメージの……なんでしょうイメージの雪崩が起きてくるといったような感じで凄い 勢いの話しでした。そのイメージがあまりにも高校生の私にとっては衝撃が強かった のと、それから凄く面白いっていうか、これを私が参加させていただいたら、なんかできるかなっていう直感的なものがあって、もうそのとき気持はそ の話しを聞いてワクワクしていました。
是枝: もうその時に佐々木さんはあれですかね、中尾さんでいく事を決められてたんです かね?会ってすぐに?
中尾: だと思うんですけど。それ以前にNHKの方とお会いしていまして一応写真だけ は編集室に貼ってあったらしいです。
是枝: 高校3年生で、そうすると撮影は夏休みを利用されたということですか?
中尾: いや夏休み前に学校を休んだのか…土日かな、とにかく夏休み前にスタートして いただいてます。
是枝: よく言われていることで、そのきちんと脚本のようなものが無くって、現場 で佐々木さんが口立てで言われたり、中尾さんが自由に口した事をそのまま作品に取 りこんだりという事が多い、というふうにお伺いしてるんですけれども、それは一本 目から変わらない演出のスタイルですか?
中尾: 一本目では、特にカメラマンの葛城さんと私に自由にやってくださいという事が それに加わっているような気がします。まあ、なんて言うのか、『葛城さん、じゃあ 小夜子さんと一緒に撮ってきてください』みたいな感じで。 あとは、私自身がとても、その、面白がっていくんですね、あの中で自分自身が非常 に、こういう、たとえば窓辺に立って日本人形を抱いてるシーンがあるんですけど も、もし私がこの人形を抱いてあそこの窓辺に立ったら葛城さんは撮るんじゃないかと かそういうふうに思うんですね。そしてそのお人形さんを抱いていると葛城さんが『そ れおもしろい』っていうふうに話して、撮ってくださったりとか、そういうキャッチ ボールがとてもありました。 セリフに関しては、やっぱり「四季ユートピアノ」になってから、榮子さんだったら こういうふうに言うんだろうなっていうふうに佐々木さんがお考えになられて、そ れを私に返してくださって、っていう感じでしょうか。
是枝: ずっと演じていかれることになる志木榮子さんという存在は、中尾さんの中で はどういう距離感なんですか?……なっていくんですかね、こう演じていて。
中尾: とても難しいんですけれども……説明が上手にできないかもしれません。 よく、あの出来上がってから素人なんだけど素人じゃないみたいで本当に調律師をやっ ているみたいで、しかも既成の俳優さんには無い雰囲気があってというふうによく言 われる、そういう意味の面でっていうのかしら、それを自分の中でどう考えているかというと、 やはり演じているときは、やりながら非常に恥ずかしいなと思ったり、いやだなと思っ たりしながらやっているときもあるんですね。で、そう思いながら榮子を演じている ときの自分というのを必ず客観的に観ている自分がいて、やりながら熱中していてそ のときの心境というのは、今どうでしたかと言われても思い出すことはでき ないんです。決してあの没頭しているわけではなくて、まず、たとえば佐々 木さんからシチュエーションを言われたときに自分のなかでパッと画がうかんで、 ああこう動けばいいのかなって思うのがあって、動く自分に対してもう一人の自分が 『うん、じゃあそれでいきな』っていうふうに言うんです。(笑い)で、そういう事を やっている最中は多分他の事を考えてたりもして、たとえば……霧多布で太陽の 歌を、太陽の踊りを、ピエロのような格好して踊っているときなんか、向こうの方か ら子供達がやって来るんですけれども、まあ多分こんな格好している私を見たら彼ら 引くだろうなとか思いながら、こう踊っているんですね。で、決してなんか、その 一生懸命何かを頭に入れて、それで、それをなんか瞬間にその世界ってんじゃないな んかこう…やっぱり…やっている本人としては榮子という意識はあまりないですけれ ども、でもスッと榮子に入っていることは確かという、なんかそういう微妙な…時間 ですから、一旦撮影も終わて作品も出来あがって放送も終わってしまって、今日もこ ういう形にいろんな方に榮子さんの主演の…という形で紹介されるんですけれど、 なんかアレっていう感じです。
是枝: さっきあの、主演女優のっていう紹介をされたとき、僕のなかでもアレっていう ちょっとこう違和感が、あそうか主演女優なのかなっていうのがやはりあるんですけ ど。
中尾: わたし女優さんの心境があまりよくわからないんですけれども…そうですね… これ本当に申し訳ないんですけどやった本人じゃないとわからないことです、 不思議な役なんですね。、『じゃあ分身ですか』とか言われてると、分身って言われても ピンとこないです、で『じゃあ自分自身ですか』って言われても難しいし。
是枝: その微妙なラインをきっと佐々木さんとしても狙われてるんですよね。いくつ か本を、あの佐々木さんが書かれたものを読ませて頂いたなかで、調律師、これ「四 季ユートピアノ」に関してですけども、主人公を調律師に設定をするというんですか 音叉を持たせてという設定が、どこから出てきた設定なのかというのが微妙に 違ってまして、おもしろいなと思って読んできたんですけれど。実際にはそのシュチュエ ーションが先にあったのか、 あの、あんまり境目の事ばっか聞いて申し訳ないですけれども、
中尾: (笑い)
是枝: 中尾さんが自分で調律の勉強をされていたのかっていうのは、どっちが先なのかっ ていうのは?多分佐々木さんのなかでも、もうゴッチャになってると思うんですけど その辺はどうだったんですか?
中尾: あの、ユーピアノに関しては佐々木さん沢山の台本を書かれてましたんで、最終 的に放送になるものの作品の場合は、ほんとにいろいろな変遷があるんで、そこから の変遷が、で、その中でチューニングハンマー、ピアノ調律師っていう仕事がどっか ら出てきたかっていうと、私もよく判りません(笑い)、ということで。
是枝: ……ということに、……なんか、あ、はい、じゃそういう事に。
(笑い)
是枝: ただその…かなりあのドラマの、骨の部分ですよね。その人と音という、人の 存在と音というのが非常に密接に結びついているドラマのなかで、いろんな人を失う つまり音を失っていった一人の女性が音叉を手にする事で一つの音を獲得していくっ ていうようなストーリィじゃないですけど、そういうこうテーマがあるような気が見ていてし たんですけど。テーマっていう言い方は多分佐々木さんもあまり好きではないでしょ うし、僕もあまり使わない、自分のモノについては使わないようにしてるんですけど も、ホントは作品だけから、作品だけを観るのが一番いいと思うんですが、今日の為 に色々資料を読んでいたらですね、その企画書のなかに『「四季ユートピアノ」は音 にまつわる罪の意識を描いたフィルムです』っていう書き方を佐々木さんはされてい たんですね、で、僕、罪の意識というのに非常に針が振れてしまったんですけれども たとえば佐々木さんは中尾さんに、この作品を演じるにあたって説明をされるときに こういうような、これは罪の話だっていうような事を、例えばこの企画書に書かれたよ うな言葉で説明はされたりするんでしょうか?
中尾: ドラマのストーリィに関する説明はありませんでした。ぶっちゃけた話、最後 出来上がって、ああこういう話しなんだ、って思いました。
(笑い)
中尾: 演じていてるほうは、わかってません。あの……
(笑い)
中尾: なんて言っていいのかですね…
是枝: それはあの、もう、その信頼をされているのか?でもやっぱり不安なのか、どうな んでしょうね、やられてるほう、演じられてるほうとしては?
中尾: あ、それはもう信頼の賜物で、もうこれは絶対いいものになっていくんだっていう ような実感と、それから、1年前…あのアフレコなどを入れると1年半ぐらいは時間か かってるんですけど、その間にわからないことがだんだんこう判っていって、作品にな ったのを観て始めて、『あ、思った通りだと思いました』って……どう説明を…あの佐々 木さんは後から時々つけられるんですけど、そのようなかたちで。事前にテーマで すとか、いつもありません。
是枝: 常にそうですか?五本全部?
中尾: はい
是枝: すばらしい女優さんですね。
(笑い)
是枝: あのそうすると現場での佐々木さんのあり方というか、中尾さんへの演出のしかた って言ったらいいのか、例えばどういうかたちでされるんですか、例えば『こうし てみてください』『こうやってください』とか『それは違う』とかっていうような、色ん なタイプの演出家の方がいると思うですけれども、佐々木さんは?
中尾: そうですね「ユートピアノ」ですとか、その後の3本の川の作品などでは、まあ現 場で出会った方と私とこうセッティング、この状況の話しがあって、これからじゃあ鳥 を撮りにいくからとか、たとえば今日は全部ではないですけど、一部上映ですけれども、 あの……白馬のお爺さんと会うっていうシーンが「川の流れはバイオリンの音」の中 にあるんですけれども、あのお爺さんの所に行って、白馬の尻尾の毛に触って……そ の前に『触ってもいいですか』っていうセリフがあるんですけれども、それはイタリア 語なんでイタリア語を教えてくださる方がいらっしゃって、その状況の説明をそのイタ リアのお爺ちゃまと、私と、白い馬に3人にするわけです。
是枝: 白い馬に。
中尾: するんです、3人に。(笑い)
(笑い)
中尾: で、あの、『日本の女の子がこういうふうに言うから、そしたらそれに自由に答え てくれ』みたいなことをイタリア語通訳と、白馬のお爺さんには言って下さってると思 うんですけれども、で1回でその目的を達する事もあるんですけれど、佐々木さんが大 切なシーンだと思ってキーのシーンだと思ってるシーンて、1回でうまく撮れない場合 はもうシチュエーションを変えてしまって違う方法で『じゃちょっと変えて』て、その 間私達はぼーっと待ってるんですけれども、佐々木さんが一生懸命考えてくださって、 で新しいシチュエーション、新しいセリフ、段取りを教えてくださると、それで撮って みます、で、あの、職業の方は誰もいらっしゃらないので、みなさん、その、実際に自 分の生活の中にある言葉ではないと駄目だって佐々木さんよくおっしゃっていて、それ に対して私も『たぶんA子さんだったらこう言うだろう』みたいな発想があると思うん ですけれども。カメラの為に1回だけ動きをやってくださいという事はありますけども リハーサルとして『じゃあいいよ挑んでやりましょう』っていうのはありません。それ をやると私自身もそれが記憶に残ってしまって次に引っ掛かっちゃったりするっていう のを自分で分かってたし、1回目が一番いいっていつも佐々木さんが仰ってるんで。そ うですねって言ってました。(笑い)
是枝: じゃテイク2ってのは無いんですね、基本的には存在しないわけですね。
中尾: はい
是枝: テイク2は……
中尾: カチンコは私のここに(胸を指して)マイクが入ってるんですけれど、長谷川さん、 まあ録音の方なんですけれどその方のほうとか、カメラのほうを向いて、(手を少し挙 げて)これがカチンコなんです。それでやってました。
是枝: あの演出だけではなくて、この2本含め「川」もそうですけども撮影、カメラマン とあと音ですか、最初みたとき音のあり方というのが素晴らしいなとおもったんです が、それはロケーションで録った自然の音もそうですし、詩のように入ってくる中尾さ んのナレーションって言っていいのかな、作品に声が参加していく感じというのが非常 に印象に残ってるんですけれども。あのナレーションというのは、声は作品が出来てい く、いわゆる最終段階で録ってるんですか?
中尾: はい、そうです。出来上がってアフターレコーディングというかたちでナレーショ ン録りだけを選んでやる、あとは足りないセリフをかぶせていく、時々佐々木さんの 声なんかも入ってるんですよ(笑い)お気付きになられるかどうか。
是枝: 音の日記というのが出てきますよね
中尾: はい
是枝: で、これがそうなんですけど(『月間ドラマ』○○年○月号・表紙が中尾さんの絵) 中尾さんの描かれてるデッサンが、これは『川の流れ』にも出てますが。 音の日記というのをホントになんか、もうホントになんていうか役柄としてではなくて ホントにつけているような気がして観ていたんですね、で音に対する感覚というのは御 自身の中ではどうですか、今も朗読という仕事をされてまして、その音ってものに対す るなんか考え方というか感じ方というのをちょっと今日は御伺いしてみたいなと思った んですけれども、そのへんは佐々木さんと出会って作品に出られた事があるきっかけ になられているのか、子供の頃から音というものに対する自分なりの感じ方というのが あったのか?
中尾: ……あの、自分の声に目覚めたというのは変な言い方ですけれども、自分の声とい うより声の力を感じ始めたのは、やはり「ユートピアノ」のドラマを撮ってアフレコのナレーションを したあたりからなんです、それを聞いてくださったNHKのラジオドラマの方が、その 後ラジオで寺山修司さんの作品をつくるというきっかけをくださったんですけれども。 そこら辺で自分の、自分のというか声の力とそれからその音楽性というものを非常に強 く意識し始めました。で、声についてはそこら辺から徐々に自分のなかで深く潜行する 部分があって徐々にラジオドラマですとか朗読と形になっていったんですけど。音に関 しては音楽もちろん好きですけれども、自分自身きれいな音のする楽器を常に身近に置 いて爪弾いていたいほうなので、言葉と音楽、今活動で朗読と音楽というのを切り離せ ないものになっていて、最近のかたちの多くのものは音楽家の方と朗読をするかたちが とても多いんですね。 で、その朗読するものというのも、絵本に作曲、曲が付いているものなどがありまして、 それを私が読んで音楽家の方と一緒に、音具(おんぐ)と言ってキチンとした楽器と認 められているものではなくて、海辺の御土産屋さんにぶら下がっているような貝殻とか、 でんでん太鼓とか、そういうものを音具としてイメージをそこに付けていくというコラ ボレーションを楽しんでいます。声に関しては一時期とても一生懸命発声練習をした時 期がありまして、その発声練習というのが、新聞のエッセイにも書いたことがあるんで すが神道の祝詞で「掛けまくも」という、あの、お正月ですとか七五三ですとか、お参 りに行って『御願いします』て言うと必ず神主さんが奏上してくださる祝詞があります けれども、そちらの方の発声練習をちょっと勉強しまして、その時にやはりもっと深い何 かがあるなってと思って、それ以来ずっとです。
是枝: 楽器は、あれですか子供の頃から身近にある環境だったんですか
中尾: 楽器とは言えないんですけれど、家は工務店だったんで鉋の音とか鋸 の(笑い)音とか釘を打つ音とか、そういうのを始終ずっと聴いていました。楽器とし てはピアノが一番最初に家にやって来た楽器です。その後、お勤めしてお給料が入るよ うになってから色々と、出会う楽器、出会う楽器が欲しくて。今は一番新しく家に来 てくれたのはプサルテリィという楽器です
是枝: プサルテイ
中尾: プサルテリィと言う楽器なんですけれど。
是枝: それはどんな楽器なんですか?
中尾: 卓上に置けるぐらいの大きさで富士山みたいな形をしている…(笑い)楽器なんで す。
(笑い)
是枝: 富士山のような形?
中尾: 要するに台形で、高い音から低い音までのピアノ線の弦が張ってあります、で木 製ですので、古楽器の仲間になるらしいんですけど、可愛い音の楽器です。
是枝: それは朗読とかでも弾かれてるんですか
中尾: これから登場する可能性があります
(笑い)
是枝: あの「夢の島」に出られた後に、美大へ行かれて、ちょっとこれは中尾さん本人に 関する質問ですけど、絵の勉強、デザインの勉強された
中尾: グラフィックデザイン科で広告を専門に、広告デザインを専門にやってました
是枝: あの作品の中で描かれているこういう(月間ドラマを手に)絵はいつぐらいから描 かれてたんですか
中尾: ドラマがそろそろ終わる頃に記憶と写真を頼りに描くんですけれども、デッサンそ のものはもう美大に入る前からやってましたので、
是枝: それは、あの勉強されたという事でしょうか
中尾: あの美大に入る場合にはデッサンが出来ないと試験が受けられないんです。
是枝: それで予備校に通って…
中尾: はい
是枝: …いたんですね。 作品の終わる頃に描かれていたものが、あの作品の中に描いているシーンがありますよ ね、じゃあ描かれているシーンはかなり後に撮られてるのかな、現場では
中尾: 描いてるもの、そうですね現場ではない挿入の場合もありますし、現場で描いてい てそれをまた描き足して、完成して、でそれをまた挿入用に使うっていうのもあります。
是枝: 非常に、その描かれるデッサンが…上手く言えないですけれど…巧いので。すごく 印象に残ってて、自分でテレビをつくるようになったとき、旅番組で、旅をしながらデ ッサンをする女の子の話というのを撮ったことが、実はありまして、似ても似つかない モノではあるんですけれども、そんなモノをつくったことがあります。個人的な話しな んですけれども…
中尾: (笑い)
(笑い)
是枝: すいません。 今日観ていただいたのは、佐々木さんとのコラボレーションでいうと一本目と二本目になりますが、この後「川」のシリーズが三本あって、どれが一番っていうのも、もしかすると失礼な話しかもしれないんですけども、一番自分で、あの強く印象に残られてる もの、もしくは思い出があるものというのは、どの作品なんでしょう
中尾: 今は、一番好きなのは、川の二本目の「アンダルシアの虹」というスペインの作品 が好きです
是枝: 御覧になってるは方、どのくらい居ますか?
(観客の3分の1程が手を挙げる)
是枝: (小声で「あ、結構いらっしゃるんですね」)それはどのあたりが、あれですか?お 話を……
中尾: 自分自身が楽しんでいると言う事と、あのアンダルシアのジプシーの方達がとても、 本当に楽しかったんですね、一緒につくっていて。もともとスペインのアンダルシア地 方は好きな場所だったんですけども、さらにそこのジプシーの方達が本当にとっても 気持のいい方なんです。なによりも本当に…なんだろう…ずっと、でも澄んだ芯のあ る時間をたくさん過ごせたと言う事かもしれません。
是枝: 五本をこう通して観ていくとですね、時間軸で追って観ていくと、やはりその中尾 さん自身が変わられてるのか、中尾さんの中から佐々木さんが引き出していくものが変 わってきているのかが難しいところなんですけれど、どんどん、なんて言うか…(小声 で「わあ難しい」)…開放的になっていると言うか、明るくなっていると言うか、勿論 その間にかなり時間が流れているので変化されていくのは当然だとおもうんですけど、 作品が要求するものですかね、それとも…御自身がかなりそれは意識、意識としてはお ありになったんですかね、今、その楽しかったと仰られてましたけど、、「川」の三部作 はやはり、あの撮影を楽しんでるなというのが、観ていてすごく伝わってくるんですけ れど。
中尾: あの、出演者の方との時間をどう過ごすかによって、ずいぶん変わってきてるよう に思います、チェコに最後の「川」のシリーズで行ったんですけれども、その時は向こ う側のチェコのスタッフの方達がいらっしゃってて、ある程度制約が有ったりしたんで すね、ところがアンダルシアに関しては全く、本当に面白い撮影でした。イタリアに 至っては最初の海外ということもあって非常に緊張していたのと、まあ本当にこんな 小人数で出来るのかなっていうぐらいのモノだったんですけれども。出来上がりとしては「バ イオリンの音」がとてもいいって仰ってくださる方、とてもいらっしゃるんですけれども、個 人的には、あのなんとも明るい、あの天真爛漫な「アンダルシアの虹」が自分の中では (笑い)一番好きなんです。
是枝: これから、そのちょっと部分的にですけれど「川の流れはバイオリンの音」を観て いだだくんですが、その小人数というのはどのくらいの人数だったんですか、スタッフ の方は?
中尾: スタッフは録音の方と、カメラの方がいまして、もう一人つく場合もあるんですけ れど、最低限は佐々木さんと、録音の方と、カメラの方と、出演者の、それだけです。 あとは時々応援で来てくださったりとか、様子見に来てくださるとかあるんですけど、 ほとんどその最小限の人数でした。
是枝: きっとそのフットワークが出てるんですね作品に。じゃあ…(司会者に合図) ではこれより……よろしいですか?
是枝: はい
司会: ではこれより「川のながれはバイオリンの音」。「四季ユートピアノ」の次の作品で すね、こちらを申し訳無いのですが全編上映する時間がございませんので、これは 是非、次の機会を設けたいと思っております。
是枝: ちょっとだけ観ていただいて…
司会: 予告編というつもりで御覧になっていただければと思います
是枝: ちょっと見せて、観ていただいて、これでまた上映会を開くために皆さんにちょっ と小出しにしていくという感じなんですけど、申し訳ありません。どうも…
司会: 申し訳ございません
聴衆: (笑い)
是枝: それで、あの中尾さんが描かれるデッサンが、こちらで観ていただいて。そのあと、また戻って来てお話を…
司会: 今度は佐々木さんを交えてのお話に移りたいとおもいますので。とりあえず前半のトークは終了ということで、ありがとうございました。
(拍手)


ガンテさんにテキスト化していただきました、ありがとうございました。


Last update      2006.6.20