<90分国内版、100分国際版の比較> 全般的に100分版のほうがカットが長く、セリフの間隔も広いため、90分版に比べて静寂で落ち着いた印象を与えます。 特に前半の雪国でのシーンが顕著で、90分版のテンポ感のあるセリフ回しより、もっと孤独感を感じさせます。 また、説明的なセリフやナレーション、音楽までも極力排して、より映像にすべてを語らせるような演出になっていると思います。「映像を見れば分かる事は、言葉では説明しない」とも言えます。 一番分かりやすい違いは、宮さんとのフランスパンのダンスのシーンが追加されている事ですが、他にも全体に渡ってカットの追加や変更が行われています。 <どちらが、より演出者の意図に近いか> 演出台本の写真に拠れば、放送時の90分という長さは制作前から決まっていたようです。90分作品として仕上げる事が絶対条件であり、前作の「紅い花」から4年近く演出作品を作れなかった事や、当時の佐々木さんを取り巻く環境を考えると、失敗は許されないため、ある程度分かり易さを優先させた編集を行った様に思えます。それは当時悪評を買った「夢の島少女」に近くなるのを避けたのかもしれません。  100分版の制作は、90分版放送の評判が良かったせいか、それ以前からイタリア賞出展が決まっていた為かは分かりませんが、佐々木さんの手記によると、初回放送後に再編集された事は確かです。 そこで、10分の尺延長が可能になり、再編集で行った事は、主に映像の持続性を高め、映像詩としての面を強調した事のようです。10分の延長のうち、追加されたシーンは宮さんとのフランスパンのダンス約50秒だけです。残りの時間は、すでにあるシーンのカット追加や延長に使われ、シーンが長くなった分、セリフやナレーションの間隔を広くし、さらにSEや説明的なセリフは削除し、より映像に集中させる手法を取っていると思われます。海外版で字幕上映が前提だとすれば、説明的なセリフやナレーションは必要ないでしょう。しかし音楽やSEまで削除しているという事からも、その事がうかがえます。コンクール出品作という事で、そのコンセプトの変更が賞を狙うための対策とも考えられますが。 また、国際版の編集では、これを国内で放送する事も意図している箇所があると思います。微妙なセリフのタイミングの変更や、別撮りの音声との差し替えなどです。とすれば、幸運にも国際版のため、再度編集して国内でも再放送する機会が与えられたと考えると、より自由に編集できた国際版の方を、決定版と見て良いのではないでしょうか。 意外な事に2001年10月21日に「NHKアーカイブス」で国内版をデジタルマスター化した物が再放送されるまで、再放送は国際版の方が多く、市販されたビデオも国際版です。その事からも、以前はNHKも国際版を「決定版」とみなしていたと思われます。それがNHKアーカイブスで再放送するとき、何らかの事情で国内版からデジタルマスターが作られました。制作から20年以上経った作品のヴァージョンを気にする人も、もういなかったのかもしれません。 しかしこの結果、永久に100分国際版が失われる事が危惧されます。何とか再び、この版を公開する方法はないでしょうか。